続く化学肥料価格の高騰。その原因と農家が取り組むべき対策は?
肥料価格の上昇が止まりそうにありません。世界的な食糧需要の増加に伴う穀物価格やコロナ禍による輸送費の値上がり、中国による環境保護政策の強化によるリン酸の海外への出荷停止など、いろんな要素が絡みあい、国内では2021年の夏ごろから肥料の値上げが続いてきました。そして、今回のウクライナ侵略の経済制裁でロシアからの塩化カリの輸入が停止し、さらなる高騰が予想されます。ここにきて、いよいよ、長年にわたり指摘されてきた、肥料の原材料を海外に依存している態勢を見直す時期が来たようです。
そこで、この記事では、化学肥料価格高騰の原因と農家が取れる対策をご紹介していきます。
目次
肥料価格高騰の原因
肥料価格の高騰の原因はいろんな要素が絡みあっています。主な要因としては、下記があげられます。
- 発展途上国での人口増による食糧需要の増加 → 穀物需要の高まり → 世界中で化学肥料の原料需要の高まり
- 異常気象などでの穀物価格高騰
- 肥料の工業的生産に必要な電力源となる天然ガスや輸送費などに関わってくる原油の高騰
このように穀物需要の高まりで、発展途上国で肥料の需要が伸びており、
加えて、小麦や大豆、トウモロコシなどの穀物相場が上がり、連動して米国やブラジルなどの生産大国で肥料価格が上がっています。
1 中国の輸出規制が追い打ち
日本の肥料原料の輸入先は、中国をはじめアメリカ、ロシア、カナダ、ブラジルなど、世界中にわたっています。
中でも中国からは、3要素の窒素肥料である尿酸を37%、リン酸アンモニアに至っては、88.7%(20年度)を輸入している現状です。
2021年7月25日、日本農業新聞に以下の記事が掲載され、大きな反響を呼びました。
中国でリン酸肥料の価格上昇が止まらない。環境保護策などでリン鉱石の生産量が減少した上、
リン酸肥料工場の稼働率が低く、生産量が追い付かないためだ。高騰する穀物の国際相場も響く。
秋季の需要増を踏まえ今後は、一段と上がる見通しだ。
このニュースは、一般紙でも掲載されたので、読まれた方は多かったことでしょう。
筆者も、読んだときには「これからどうなるのかな?」程度の感想しかありませんでした。
それが、自分の身近な問題として認識できたのは、JAで肥料担当の幹部の方からお聞きした下記の言葉でした。
中国のリン酸輸出規制の影響で、JA全農のリン酸の在庫がほぼゼロに近い状態になってるんですよ。ホームセンターなんかでみてもらえば、展示している肥料の品数や在庫が少なくなるなど、影響がでているのがわかりますよ。
これまでJAのリン酸原料は、大半を中国から調達していたから大打撃で、急いで調達先の切り替えを進め、これからはモロッコが主な輸入先になる見通しです。
でも、モロッコからの物流が1か月もかかるようなので、何かあったときの対応がどうなるのか心配しています。
肥料価格の高騰は、中国の原料出規制などに限った話ではありません。
2 経済制裁が高騰に拍車をかける
日本の化学肥料は原料の大半を輸入に頼っており、3要素のうち、リン酸と窒素は中国が主な輸入先です。
塩化カリ(カリウム)に関しては、カナダからが約63%で、ロシア・ベラルーシから約25%を輸入していることから、
ウクライナ侵攻での両国への経済制裁により、さらなる高騰は避けられない状況であると予想されます。
肥料値上げの主な理由は、原料の国際相場の上昇
肥料の需要は、世界をみると、発展途上国で需要が増えていますが、日本での需要は減っています。
日本の肥料消費量は世界の0.5%(18年)に過ぎないので、購買力がない分どうしても世界の肥料消費大国の影響を受けてしまうのが現状です。
ちなみに、消費の多い上位5カ国は順に、中国、インド、米国、ブラジル、インドネシアになっています。
肥料価格の高騰は続く 肥料の節約対策
今回の値上がりは08年以来の高騰といわれています。この波はいずれ収まるにしても、肥料の値上がり傾向は避けがたい流れになっています。原料である鉱物資源は基本的に有限であり、人口増加と農業の近代化が世界で進む以上、肥料の需要は増え続けることは間違いありません。そうなると、資源の枯渇の問題につながり、それを回避するため、必然的に化学肥料を節約し、ほかの肥料や堆肥に置き換えるという対策が必要になります。
農林水産省は2021年5月末に肥料代の節約を指南する肥料関係情報「農業者の皆様へ」というページを立ち上げ、肥料の切り替えや土づくり、土壌診断などを提案しています。
肥料代の節約につながる主な方法には
- 土壌診断を受ける
- 堆肥など有機物を活用する
- 局所施肥を行う
が挙げられます。
土壌診断について
土壌診断を定期的に受けることで土壌の状態が確認でき、過剰もしくは不足している成分を把握できれば、余分な施肥を行わずに済みます。
日本に限らない話ですが、過剰な施肥が肥料の需要を必要以上に高めてしまっています。農地に養分を過剰に与えると、地下水や土壌など環境に負荷をかけるし、作物に病害が生じやすくなります。特に国内ではリン酸過剰の農地が多く、土壌病害が深刻化しいます。肥料代も無駄にかかるので過剰施肥に良いことはありません。
ではありますが、農家は三要素(窒素、リン酸、カリ)を同じ量ずつ含む配合肥料をよく使う。理由は安いからで、多くの農地にリン酸をますます余計にため込む結果になっています。
だからこそ 土壌診断をして必要な成分だけを補うのが望ましいということです。
堆肥など有機物の活用
有機質堆肥の活用は土作りだけでなく肥料効果も見込めます。化学肥料が普及拡大する前は、堆肥や家畜排せつ物・生ゴミなどの有機物を肥料として使っていました。身近にある資源を活用できるのであれば、肥料を安価に手に入れることができるといった意味で大きな節約効果が見込めます。ただし有機物を施用する際、発酵分解が進んでいない未熟なものを使うと農作物にかえって悪影響を及ぼしてしまうため、分解が進んだものを利用する注意が必要です。
局所施肥
局所施肥も節約効果におすすめです。「畝だけ」や「マルチ内だけ」、「作物を植え付ける溝だけ」など、作物を植え付ける場所だけに肥料を施すことで施肥量を減らすことができます。
ほかにも、化学的に合成された肥料や農薬を使用しない「有機栽培」や、肥料も農薬も使わず、土も耕さない「自然農法」などから、肥料を減らす、または使わない方法を学ぶことも効果は大きくなります。
土壌診断などは、これまでは検査会社に依頼するとコストや時間がかかっていましたが、今では農業にIT技術を活用したスマート農業の研究開発が急速に進んでいます。JAグループでもスマホで土壌診断ができるアプリの開発に取組んでいます。
今回の高騰を機に様々な事例を学びながら、化学肥料の節約に本格的に取り組むべきではないでしょうか。
参考文献